2気筒車と4気筒車考

 

はじめに

 

管理人の車歴には3台の2気筒車が含まれている。詳細は記憶に残るバイクたちを参照していただくとして、その車歴における割合は50%を占めている。この4気筒車全盛時代において意外にも高い割合を誇る。さらにその中で、俗に言うビッグボアツイン(大直径シリンダの2気筒車)は2台である。本論では2気筒車でも特にビッグボアツインについて論じることとしよう。また、4気筒車が2気筒車に劣っているとかいうことは決して無い。あくまでも個人的な考えで2気筒車に肩入れしているだけであることを最初にことわっておこう。

 

ビッグボアツインとは

 

本論に入る前に用語の定義を明確にしておこう。大排気量、ビッグボアツイン、よく耳にする言葉であるが

正確な定義はなされていないように思える。

大排気量については免許制度により排気量が400ccを超えるものを指すことが多いと思われるが、実質日本国内ではおよそ600cc以上と言えよう。世界的なバイクのラインナップでは500ccというものも存在はしており、GPZ-S、KLE、CB、GSなどが挙げられる。これらは日本にはほとんど入荷していないのが実情であるのだ。バイク購入ガイドの類のカタログを書籍化したものなどに小さく掲載されているだけなので、なかなかマニアな存在と言えよう。

次にビッグボアツインであるが、先に注釈をつけたように「大直径シリンダの2気筒車」のことである。大直径っていったいどのくらいだろうか。現在の国内4社400cc以上(管理人の趣向により、アメリカンおよびスクーターを除く)のラインナップ上で、2気筒車のボアを比較してみよう。

 

HONDA

VTR1000 SP2=100mm

VTR1000F、XL1000V バラデロ=98mm

NT700 ドゥービル=81mm

XL650V トランザルプ=79mm

CB500F=73mm

 

YAMAHA

MT-01=97mm

TDM900=92mm

TDM850、TRX850=89.5mm(参考)

 

SUZUKI

SV1000、V-STROM1000=98mm

SV650、V-STROM650=81mm

GS500F=74mm

 

KAWASAKI

ER-6、VERSYS=83mm

W650=72mm

KLE500=74mm

となっている。因みに1000cc 4気筒車だと70mm〜77.2mmとなっている。そう考えるとボアが80mm超えくらいなら「ビッグボア」と呼べそうだ。よって本論では80mm以上と定義してみよう。そのように考えると650cc以上の2気筒車ならおおよそビッグボアツインと呼んで差し支えなかろう。どうでもよいが、ビッグボアでない2気筒車は単にツインと呼べばよかろう。

 

ビッグボアツインの楽しみ

 

さて、何故にこのような企画を思いついたのであろうか。先のサスペンションの企画で登場していただいたSP-2氏の存在に依るところが大きそうだ。というのも御承知の通り、彼は2気筒車愛好家なのだ。その昔、管理人がまだ若かりし頃、数値的な観点からしかバイクを見ておらず、4気筒車以外は眼中になかった。また、最新の技術が投入されるのも4気筒であったため、それに拍車をかけていたようだ。しかし、セパハンが苦痛になり始めた頃、嗜好が急速に2気筒に傾いた。当時乗っていたRF900に別れを告げ、TDM850を購入。その車体の細さ、軽いコーナーリング感覚、鋭い突っ込み、アクセルの開けやすさ、どれをとっても今までにない楽しさで衝撃を受けた。低中速域のドロドロ感も2気筒車ならでは。「カタログ数値はあくまでも目安だな。軽い感覚、スリムさが重要だ。」という結論に達した。このような話をしたところSP2氏は大喜びで同調してくれた。公道のたのしさを求めるなら2気筒だ。二人は熱く語り合った。

外観上の楽しみもやはり2気筒に軍配があがりそうだ。一部車種を除いて、2気筒車は相変わらず2本出しマフラーを採用しており、さらに横についている。これだけで後ろからの絵はかっこいいが、SP-2やTRXのようにアップタイプなんて女子高生に言わせれば「チョーかっこいい」ではないか。また、管理人の好きなハーフカウルを採用している場合が多いことも見逃せない。やっぱり2気筒車万歳である。こうして蘊蓄をたれているだけでもフツフツと熱いものを覚える。

もっとも、ビッグボアでなくともツインなら上記のような楽しみ方が十分できそうな気がする。今後は大排気量車ツインに話を広げていこう。

 

4発対2発

 

さて、いよいよ本題、両者のタイマン勝負だ。先に述べたように、2気筒車の神髄はコーナリングにあると思う。そこで4発、2発のコーナリング時の感覚を対比しながらその要因について考えていこう。

まず直線からコーナーを目指して走ってくる。ここは4気筒の伸びに分がある。高回転の伸びの気持ちよさは4気筒に及ばない。速度の乗りも然りだ。しかし、高回転においてもシリンダー内の爆発を感じつつ絞り出すようなパワー感は2気筒ならでは。

おお、コーナーだ。アクセルを戻してブレーキをかけ、減速。両者に絶対的重量の差はあまりない。「え、同じ排気量なら2気筒の方が軽いのでは?」と疑問を感じる方もみえるが、一発の爆発がでかい2気筒は結構な強度が必要らしく、あまり軽くはないらしい。さらに、先に述べたように、最新の技術は4気筒車に採用されていることが多く、昨今ではスーパースポーツの4気筒車は異常とも思える程軽い。一度CBRやGSXR等のカタログを見るとよいだろう。驚いてしまうことうけあいだ。「なにぃ、さっき軽いコーナーリング感覚って言ってたじゃん」と突っ込まれそうだが、当然だ。2気筒車は絶対的に軽いのではなく、コーナリング時に軽い感覚を味わえるのだ。それについては直下で述べているマスの集中が影響しているので、このまま進めていこう。

コーナーに突っ込み、減速を終え、車体を寝かす。ここは2気筒にやや分がありそうだ。なぜなら質量の大きな物(マス)を集中して搭載可能だからだ。そもそもエンジン自体が細い。同じ重量でも体積が小さいのだ。管理人のTDMはドライサンプ方式のオイルタンクを採用している。オイルタンクを背中に背負っているので、エンジン下のオイルパンに溜めるよりマスが集中する。なかなか小技が利いていて好きだ。エンジンブレーキの効きも大きい。これが仇になることもあるが、、。さて、4気筒車はどうだろう。寝かしこみ時にエンジン幅のために若干反応にズレがあるためか、2気筒車程の突っ込みは難しいか?やや遠慮気味に進入してきて寝かしこむ。

旋回に入った。アクセルパーシャルオープン。レスポンスは互角だが、一発の爆発がおおきいので2気筒はちょっと神経質にならざるをえない。振動もある。対して4気筒はスムースな回転上昇のおかげで安心だ。振動も少ない。うーん、スムースさでは4気筒圧倒的に有利だ。バイクは向きを変えて次の段階へ。

車体を徐々にまっすぐにして立ち上がり加速だ。アクセルワイドオープン!!爆発のでかい2気筒車は車体を震わせて加速。さらに爆発間隔も大きいのでタイヤのグリップも確保できている。滑りが出たとしても断片的なものだ。いわゆるトラクションがよいということだろう。4気筒車のアクセルオープンは慎重に行こう。滑りだしたら止まりにくい。これは爆発感覚が2気筒より狭いことに起因する。滑ったからといって不用意にもどしたらハイサイドを食らうこともある。思い切って大きめに開けられるのは2気筒の大きな楽しみと言えよう。また例の絞り出すような回転の上昇も感じつつ鋭い立ち上がりを実現。4気筒車ではこの段階ではパワーがあっても開けられないディレンマに陥る可能性がありそうだ。

以上のように、一般的にみればまだまだ2気筒車は有利な点があるし、仮に速なくとも楽しいことは間違いない。ツーリング中に頻繁に現れる屈曲路では退屈しない。逆に4気筒車に乗っていた時はヘタッピだったので開けられなく、不満が残っていたように思う。また、最近の2気筒車はそれほどドコドコ言わないのだが、それでも4気筒に比べたら震動は確実に大きい。これも心地よく、楽しみの一因であることは間違いない。

 

メンテナンス(余談)

 

気筒数の違いは当然メンテナンス費用にも影響を及ぼす。プラグにはじまり、タペット調整、気筒間スロットルの同調調整、すべて2気筒は半分でよい。因みにオイルや、冷却水なんかは排気量=熱量で決まるのか?ほとんど差は無い。また、これこそ余談だが、飛行機の場合は4発は縮小傾向で、今や777をはじめとする双発機の独壇場と言ってもよい。

 

まとめ

 

以上のようにウダウダと書いてきたが、百聞は一見に如かず。結局実機に乗ることをお勧めする。また、今回は公道で一般人が乗るオートバイについて考えた為、音については記述しなかった。しかし、サーキットでの2気筒車対4気筒車も見応え充分であることを付け加えておく必要がある。というのも、ストレートでのスピードは劣勢であるが、独特の低い排気音を響かせて駆け抜ける2気筒車は迫力がある。管理人の印象に残っているのは1995年〜1997年にかけて鈴鹿8時間耐久に参戦したTRXだ。また、出力差にして30PS以上あると推定されたが、コーナースピードは明らかに速かった点も見逃せない。特にヘアピン、スプーンで顕著だった。もっともコーナー脱出の全開加速では見る影もなかったのは言うまでもないが。

オートバイは絶対性能がすべてではない。ということはカタログ上の数値はあくまでも目安だ。数値に表れないものに楽しみが隠されているのである。感覚=フィーリングはその代表と言ってよかろう。物事の本質に迫るには多角的な見解が必要だ。オートバイは人間の運転による部分がまだまだ多く残されている。そういう点からも数値は一要因に過ぎないことを強調したい。というのは、最近排気量がでかいとよいバイク的な傾向が顕著に見られるからだ。これはエンジンが大きい=カタログ上の数値が良いということから由来しているものと思われる。4輪車ではもっと顕著だろう。しかし、そうではない。重さ、大きさ、パワー、このバランスがよいものが良いということなのだ。直線はアクセルを踏めば誰でも走れる。しかし、コーナーでは様々な要因を考えつつ操作を行わなければならない。ここに楽しさがあり、ロマンがある。これは高度な知的営みであると言えよう。このような思考を働かせるのに適しているのはやはり2気筒車だ。ということで、まとめとしよう。

 

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