SP2氏に贈るサスペンション考

 

開設の経緯

 

2007年7月の某日、梅雨の晴れ間を見つけて避暑を兼ねて岐阜、長野南部をツーリングしていた。この方面には管理人を満足させる、温泉、ワインディングが多数存在する。その一つに串原温泉、そして矢作ダム湖畔路が挙がる。同ダム路では週末ともなるとたくさんのライダーを見かけ、腕を磨いている。ほとんどは良心的バイク乗りであるのは言うまでもないが、その内の一人、SP2氏と偶然にも数回、乱肥満?(ランデブー)した。彼は至極紳士的、かつ大人のライダーであり、またひたむきにライディングを楽しんでいると感じた。彼と話をしているとサスペンションの事が話題になり、おせっかいにも管理人は雑誌記事の受け売りをあたかも自分独自の薀蓄の如く語っていた。

そのようなわけで、管理人自身もサスペンションの基礎的事柄について今一度考えてみると同時に、SP2氏のようなライダーが増えることを願い当ページを開設することにしてみた。

構成はサスペンションそのものの定義から始まり、簡単な構造の概観、さらにセッティングの極基礎的な考えを「月刊ビッグマシン」の記載の引用等を用いて述べることとする。

 

サスペンションとは何か

 

サスペンションとは何か。この問いはかなり難しい。The Merriam-Webster Dictionary Frederc C. Mish(1989)によると

suspention →名詞 「何かを吊り下げること、装置」 (管理人訳)

と記載がある。この定義を二輪車に限定してみると

「車体とタイヤ(タイヤ+ホイール)の間に介在し走行時の衝撃を緩衝すると同時に、その特性により走行状態を決定する装置」

ということになろう。つまりタイヤなど(バネ下に当たるもの)を吊り下げ、乗り心地を良くし、その特性によって走りを変えるモノである。

当論では後半の「特性によって走りを変える」というところにさらに限定して話をすすめてみよう。

 

サスペンションの内部構造

 

サスペンションの特性に入る前に、その基本的な内部構造に触れてみないと論は進まない。一般的な二輪車のサスペンションを構成するものとしておおまかに見てみると、前輪用では、アウターチューブ、インナーチューブ、スプリング、オイル、オリフィス、シム、後輪用ではロッド、外筒、スプリング、オイル、オリフィスが挙げられる。これらの中で、サスペンションの特性を決定している重要なものはやはり、スプリング、オイル、オリフィス、シムと言えよう。つまり、大雑把には筒の中でスプリングが伸び、縮みしたり、オイルがオリフィスを通過、またはシムに当たったりする塩梅が特性を決めていると考えればほぼ問題はないだろう。

また、エアサスの類はこの限りではなさそうなので、本論では省くこととする。

 

サスペンションのセッティング

 

概要

さて、前置きが長くなった。管理人は自分の範疇ではあるが、理論化してから本題に入り、実際の状況と理論を照合してみることを常としている。ご了承願いたい。

二輪車のサスペンションのセッティングは、上記の重要な要素を交換、調整することで好みの特性にすることとなりそうだ。ここでは後者の調整について考えてみる。最近の二輪車ではおおよそ、スプリングの初期過重(プリロード)、減衰機構(ダンパー)の圧側(コンプレッション)、伸び側(リバウンドまたはテンション)の3つの要素を調整できるようになっている。それぞれの役割は以下の通りである。

「簡単にいうと、プリロードのアジャスターは走っている時にサスペンションが留まる位置、ダンパーのアジャスターはその位置が変わる時のスピードを調整するためにある」

また、減衰機構について、「・・・伸び側(戻り)と圧側(入り)があって、それぞれ受け持ちが違う。圧側は主としてバネ上(マシン+ライダー)の動きを制御しているのに対し、伸び側はバネ下(ホイールやスイングアーム)の動き方をコントロールしている。」

ははぁ、するとダンパーってのはサスペンションの動く速度に加え、その結果、走行中の姿勢の安定に寄与するものなのかぁ。奥が深そうです。

さらにはこんな記載もあった。「最近のサスペンションで最も進んだ部分は減衰特性だという。スロットルを開けるためには、まずマシンの姿勢を安定させてやる必要がある。挙動が不安定だとマシンに体を預けられないからだ。そのためにダンパーで無駄な動きをとめてやることがたいせつである。」

また、順序としては、プリロードを先に決めて、その後、リアの減衰、フロントの減衰という順番で決めていくそうだ。

 

月刊ビッグマシン 200010月号(No. 64号)

注:以下カギ括弧は同誌の引用とする。

 

各調整機構の役割と調整によるバイクの変化

 

プリロードの調整(静止時)

同誌によるとまずは静止時にプリロードを調整することから始めるらしい。尚、この際は「各アジャスターの標準位置を出発点とする」そうだ。物事を考える上で、基準となるものと比べて議論することは大変わかりやすいので納得いく指示だ。まずはバイクの姿勢をチェック。具体的には「・・・車体の姿勢がニュートラルになっているか、つまりフロントが下がりすぎていたり、リアが下がりすぎていたりしないか確認」する。次は前後の動きのバランスを整える。バランスの取れた状態とは、「またがってシートにドンと体重を預け、リアが沈み込んだあとに一瞬遅れてフロントが沈み込むようなら、上々である。・・・ムチを打つようにブワンと後ろから前にうねりが伝わっていく」ことだ。これは走行時の前後の過重の受け渡しに通じている。つまりは加速時は前から後ろへ、減速時は後ろから前へ過重が移動するのであるが、その状態をチェックしているといえよう。また、プリロードは「・・・その仕向け地の平均的な体重のライダーが普通に走れる状態になっている」そうだ。

 

フロントのプリロード調整(走行時)

フロントのプリロードを強くすると「前上がりの姿勢になり、ギャップで跳ね、ブレーキング時も沈まない」状態となる。つまりフロントの車高が上がり、スプリングの反発力が強くなる結果起こる状況である。逆にプリロードを弱くすると「前下がりの姿勢、ブレーキング時にフロントが沈みすぎ、接地感がない」状態になる。

 

リアのプリロード(走行時)

リアのプリロードを強くすると「リア車高が上がり、倒しこみやすく、アクセルも開けられ、旋回力がアップしたように感ずる」ということになり、また弱くすると「沈み込み量が多く、後ろ下がりの姿勢、アクセルを開けても旋回しない、(プッシュアンダー)、グリップ感がない」などの不具合が出る。

 

減衰機構(ダンパー)の調整

ダンパーは走行時の調整のみを述べることになる。なぜなら、ダンパーは主として走行時のサスペンションの動き方を決定しているからだ。ダンパーには伸び側と圧側があるのはご承知のとおりであるが、それぞれは、「・・・伸び側ダンパーでサスペンションが伸びるスピードを調整・・・。」、「圧側ダンパーの主たる仕事はサスペンションが沈む時のスピードをコントロール・・・。」である。ところで、伸び側の一般論として、「サーキットと違い、ストリートでは路面状況が刻々と変わる。安全マージンを考えるとギャップを乗り越えたときにサスペンションがスッと伸びてきた方がいい。・・・市販車の伸び側ダンパーは弱めに設定されているのが一般的」だそうだ。また、「ダンパーの動きを抑えていくとマシンは安定してくるけど、強すぎればサスペンションが動かなくなる」ということも頭に入れておこう。では、以下にフロント、リアディゾンの調整によるバイクの変化を述べてみよう。

 

フロントのリバウンド(伸び側)

フロントの伸び側ダンパーを強めるとフォークの伸びる速度が遅くなる。したがって、「フロントが重い、フォークが動かないのでリアだけ動いているように感ずる、ステアリングステムが低い位置に留まったままになる、倒しこみのきっかけがつかみにくい」といったようになりがちだ。つまり、ブレーキングなどでフォークが沈んでも、なかなか元の位置に戻ってこないことになる。逆に弱めると伸びてくる速度が速くなる。結果「フロントに落ち着きがなくなり、前輪の方向性があいまいになる、コーナー出口でスロットルを開けていくと前輪が逃げていく、旋回中もふわふわして落ち着かない」という症状が出てくる。

 

リアのリバウンド(伸び側)

リアの伸び側ダンパーを強めるとリアサスの伸びてくる速度が遅くなる。したがって、「リジットサスのように感ずる、リアの姿勢が低く感じる、前後タイヤともに接地感が感じられない、ギャップで突き上げられる」、という傾向が見られる。また、逆に弱めると「リアサスが動きすぎて落ち着かない、コーナーリング中にリアの車高が高く感ずる、ギャップで振られやすく、バタつく、乗り心地がよい、軽快に感ずる」など。

ここで、管理人が驚いたのは、「前後ともにタイヤの接地感が感じられない」という項目だ。リアの接地感が薄くなるのは、サスの伸びが遅いので、タイヤが浮いたようになるためと思われるが、フロントにも影響があるとは。一度試してみたい。リアサスは車体全体に影響力を持つのかもしれない。

 

フロントのコンプレッション(圧側)

フロントの圧側が強いと「フロントが重くなった感じ、フォークが沈み込みすぎずにフロントに安定感が出る、コーナーリング中の姿勢が安定、走行中のフロントの車高が高い、倒しこみではもう少しフロントがスムースに動いて欲しい」という感じになる。逆に弱い場合は、「ハードブレーキングではフォークが沈みこみすぎ、ばたつく、ギャップに乗ると大きなうねりのような突き上げがある。」そうだ。

弱い場合の最後、うねりのような突き上げというのは目からウロコだ。突き上げといえば強い場合のみに起こるものと考えていたからだ。これはギャップそのものの突き上げではなく、ギャップ通過後の着地時の突き上げと考えれば納得がいくように思える。

 

リアのコンプレッション(圧側)

リアの場合では、強いと「リアが高い位置で動かない、リアの車高が高くスロットルを開けても沈まない、マシンの動きがスローで頑固な落ち着きのようなものがある、リアブレーキがロックしやすい」。弱い場合は、「高速コーナーで沈み込みすぎてしまい、奥の方でブワンブワンと動いている、車体がよれるような感じ、倒しこみで一気にガツンと沈み、挙動が乱れる」ということだ。

リアの圧側が強いとなんでリアブレーキがロックしやすいのか。伸びが強いとロックしやすいという気がするが、、。わからない。SP2氏、わかりますか??

 

まとめ

上記のように、一見感覚だけが頼りに思えるサスペンションの調整であるが、以外にも理論に裏打ちされた部分もあることがわかった。ただし、気をつけないといけないことがある。それは、万能ではないということだ。キャブレターのセッティングもそうであるが、厳密には走行中のその瞬間、瞬間毎に気温、気圧、湿度、水温、油温は異なる。それに合わせないと完璧なものにはならない。しかし、それは不可能だ。せいぜい、今日のセッティングというぐらいだろう。サスも同様で、矢作仕様、本宮仕様、という程度ではなかろうか。ステージがある程度限られる場合には、かなり思い切ったセッティングも可能であるが、管理人のような旅ライダーであれば、中速コーナー向けツーリング仕様、ヘアピン重視仕様、乗り心地仕様なんてものになろう。それもある程度コースが決まった場合に限られる。故にTDMは基準セッティングに対して1〜2段の小変更になっている。

非常に大雑把ではあるが、セッティングの基礎中の基礎と思われる部分を考えてみた。SP2氏に送れれる管理人の考察はこの程度である。期待外れであったとは思うが、もしよかったら参考にして頂きたい。意見、質問なんかがあったらまたお寄せ下さい。因みに本日のセッティングは

F:伸び側一段戻し、R:圧側一段締めである。

Fは動きが感じやすいが、路面が悪いとやや暴れる傾向がある。Rは安定性が増して、道路幅を思い切って使えるようになった。

最後になるが、ビッグマシン誌に「わからなくなったら基準セッティングからやり直す」、とか、「最強、最弱にしてみて、各要素がどのように影響するかを体感して、再度調整する」という内容のことが書かれていた。また、「いっぺんに複数要素の調整をしないで、一つ一つやっていく」ことが基本らしい。管理人のようにいっぺんにいろいろいじってはいけなかったようだ。なるほど、極端にして傾向を把握するのはとても有効だと思われる。一度記載の理論通りであるか確認する意味でも行ってみる価値はありそうだ。

以上、SP2氏に贈るサスペンション考でした。

 

 最後に(参考)

 SP-1のものであるが、BIG MACHINE誌に掲載されている参考セッティングを以下に示しておこう。

フロント:

 ・プリロード→上から4本目のケガキ線

 ・伸び側→最強から7クリック戻し

 ・圧側→最強から12クリック戻し

リア:

 ・プリロード→最強から4段目

 ・伸び側→最強から1回転戻し

 ・圧側→最強から10クリック戻し

「非常にダンパーが強く効いたセッティングなのでキャップなどでハネやすい。そこで、フロントを丁寧に動かすセッティングするとよい。まず、フロントはプリロードを少し弱め、それに合わせてコンプレッションとテンションを弱めていく。リアはプリロードを1段弱めて、コンプレッションとテンションを強める。また、チェーンを1リンク追加して、アクスルを後ろに持っていき、実質のスイングアーム長を伸ばしたい。こうすると車高が少し高くなって走りにメリハリがでてくる」

ということなので、一度お試しあれ。フロントの伸びってクリック調整でしたっけ???

 

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