夕暮れのモスタル旧市街地
橋の歴史を楽しんだ後、ちょっと気になっていた場所へ行ってみる。ミナレットからも、博物館からも見えている、やたらと背の高い時計塔だ。これは旧市街地から数百メートル離れた場所にあるのだが、一体何だろうか。
新市街地へ向かって歩いてくが、この辺りは普通の街である。果たして、時計塔の下までやって来る。説明によれば、名前は「平和の鐘の塔モスタル」ということだ。ああ、鐘があるのか。よく見なくても、大きなものがぶら下がっているね。
案内版があるので見てみると、高さが107.2 mあるようだ。この国ではかなりの建造物であろう。建設は2000年ということで、鐘の重さは251トンもあるそうだ。これは飛行機で言うと、ボーイング787型機くらいだろうか。上ってみてもよかったのだが、結構な値段だったし、ちょっと疲れてきたので今回は止めておく。ただ、ここもモスタルの新名所であるようで、観光客が大勢訪れていたと補記しておこう。
新市街地にそびえ立つ時計塔
搭を後にして再び旧市街地へ戻る。そして、アイスクリーム屋の前を通りかかると「ニーハオ」と声をかけられる。「おいおい、俺は日本人だぜ」と店員に言うと「コンニチハ」だって。何だ、商売熱心じゃあないか。「日本語の挨拶をしっているんだな」と言うと「私はスペイン語だってロシア語だって知っているのよ」と自慢げだ。
これは気に入ったということで、アイスクリームを一つ買うことにする。おすすめをたずねると「全ておすすめで、サイズも3種類あるよ。でも、あなたは大人だから、ベビーサイズはダメよ」と。いやいや、そんなにいらないので、「メロンのベビーサイズ」を注文する。「ベビーサイズはダメって言ったでしょう」と笑いながら、アイスクリームを作ってくれる。これは1マルク(60円程度)とお値打ちだ。
商売熱心な女性店員
アイスナメナメのモスタル版で歩いていき、再び橋を渡る。よくよく見てみると、数多くの扇型の石が組んであり、それらを鉄の楔が結んでいる。説明の通りだね。関心していると、雨が強くなってくるので傘をさす。ついでに膀胱も限界なので、ちょっと行った所にあるカフェに入ることにする。コーヒーはさっき飲んだので「ターキッシュ・ティー」を頼むが「ナイ」ということなので、やはり「ボスニア・コーヒー」を注文する。時刻は16時過ぎなので、だんだんと暗くなってくる。橋を含めた市街地には灯りがつきはじめ、良い雰囲気である。冒頭の写真はこの時に写したものだ。
コーヒーを飲みながら、一息つく。ああ、これで今日も終わり、サラエボに戻るのかァ。観光を楽しむのは、明日1日のみだな。あさっては早朝から飛行機に乗って、大移動だからな。感慨にふけりながら、残り少ない時をようやく飲みなれてきたボスニアコーヒーと共に流していく。
カフェであまり長い時間粘っていてもいやらしいので、そろそろ出るとしよう。もう一回トイレに行き、2マルクを払う。日本と違って、海外では公衆トイレは有料なので、店に入ったついでに用を足しておかなければならない。
薄暗いチトー通りを歩いて、駅へ向かう。サラエボにもチトー通りがあるんだけど、モスタルにもあるとは知らなかった。やはり、戦後のユーゴスラビアに多大なる影響を与えた人物なので、良くも悪くも覚えられているということだろう。
人通りが少ないので、強盗やスリがいないかキョロキョロと周りを注意しつつ10分程歩くと、駅の灯りが見えてくる。やれやれ、ホッとしたよ。
薄暗くなってきたチトー通り
時刻はまだ17時と、バスの発車時刻までは1時間以上ある。まあ、海外では何があるかわからないので、このくらいの余裕を見ておく必要がある。乗り遅れて、モスタルに取り残されてはシャレにならないからね。
雨がシトシトと降ってうすら寒いので、待合室に入って時間を潰す。暇なので、持参しているガイドブックの他の国のページを読んでみる。おお、ブルガリアとかルーマニアも近くにあるのか。ブルガリアって名前はよく聞くけど、行ったことのある人なんて聞いたことがない。これは自分で行くしかなかろう。その類の国としては、やはり「ガーナ」が気になっている。こちらもいずれ行ってみなければならないだろう。そんなことを考えて、独りでニヤニヤしていた(と思う)ので、周りの人たちは「あの東洋人は頭がおかしいんじゃあないか」と思われていたかもしれない。
さて、サラエボ行きのバスはPeron3から出るのだが、なぜかPeron2にバスがやって来る。おかしいなと思って英語がわかりそうな人に「サラエボ行きか」とたずねてみると「そうだよ」と。おいおい、3番と信じ込んでいたら本当に取り残されるところだったよ。いや、結局バスはPeron3に入ってきたので、予定通りだ。
それにしても、これだけ人がいて混雑していると、スリも商売がやりやすいだろう。そう思い、なるべく人ごみに混ざらないように注意して、順番を待つ。もっとも、途中から警察官がやってきたので、その心配もなくなったと追記しておこう。警察が来るということは、やっぱり犯罪が多いんだろうね。
バスがやってきました。
バスに乗り込み、ほっとして発車を待っていると、18時30分の定刻に発車となった。それにしても疲れたな、と目を閉じていたらいつの間にか寝てしまった。ハッとして目が覚めると、時刻は既に20時を回っている。また、隣には、いつの間にかゲルマン系の男が座っている。こいつはしまった、実に無愛想なことをしてしまった。
ということで、今更ながらに「やあ、とても疲れていて寝てしまった、あいさつできなくてスマン」と話しかけてみる。すると「いや、問題ないよ」と話に乗ってくる。「中国から来たのか?」と聞かれるので「日本からさ」と答える。すると、急に表情が変わり「日本にはとても興味があるんだ」とさらにテンションを上げてくる。「バンサイは知っているが、その意味がわからない」と難しい質問を投げてくる。こいつは困ったぞ。仕方ないので「バンザイは、天皇が国民の前に出てくる時や、結婚式でもするんだ。つまり、何かおめでたい時に、中心となる人に向けて、周囲の人が一緒になってお祝いの気持ちを表す行動さ」と解説する。「なるほど」とわかったような顔をしているが、本当にこれで良かったのか。
それから、サラエボまでは日本のことをいろいろ聞かれて、それに答えるという形式で話をする。「日本ってすごくクールだよな」と興奮気味にする、ドイツの青年である。因みに、住んでいる場所を聞かれたので、東京と大阪の間にある「名古屋」の近くだと答える。もちろん、知らないって。でも「トヨタも近いよ」と言うと「そうなんだ」とまたまた喜んでいる。
そんな風に交流を深めていたら、バスはサラエボ市内に入ってくる。また、終点の鉄道駅の手前にある、バス停にも止まるようだ。「次で降りるね」とドイツ人氏は言い残して、席を立つ。「じゃあね」と手を挙げて、彼を見送る。
バスが再び動き出し、終点に到着する。外は相変わらずの雨降りであり、少々寒い。バスターミナルから路面電車の停留所までは数百メートルあり、薄暗い場所も通らなくてはならい。強盗やスリには用心しなくてはならいだろう。
そんなことを考えていると「おお、友よ、タクシーに乗らないか?」と声がかかる。ここは「わからないフリ」をするべきだったのだが「いや、乗らない」と断る。それはそうと、駅から旧市街地までの路面電車は1系統なんだけど、車両が来る気配がない。仕方ないので「スナイパー通り」まで歩いて、3系統の電車をつかまえることにする。今日は結構歩いたが、もうひと踏ん張りだ。停留所に着くと、予想通り電車はすぐにやって来る。やれやれ。
時刻は22時になろうとしているが、晩飯をどうするかを考えていなかった。しまったなぁ、もちろん、サラエボには24時間営業のコンビニなど無い。酒場ならば遅くまで開いているだろうが、当方は酒を飲むこともない。ホテルのレストランが開いているかな。あれこれ考えるが、ダメモトでいつもの「イナット・クチャ」へ行ってみて、開いていなかったらホテルのレストランへダイバートすることにする。
「ラテン橋」の停留所で降りて、少し歩いてレストランへ向かう。おお、まだ灯りがついているじゃあないか。これに気をよくして、足取り軽く店の扉を開ける。すると、いつもの店員が来て「そろそろ閉めるところなんだ」と。「ええ?何とかならないのかな」と言おうとすると「ちょっと聞いてくるわ」と厨房へ行く。「まあ、いいよ、席に座りなよ」とO.K.を出してくれる。
「いやあ、悪いねぇ」と言うと「大丈夫だよ、問題ない。何にする?」と愛想よく接してくれる。ほぼ毎日この店に通っていることが良かったのか、大変助かった。さて、何を食べようか。やはりいつもの「ボスニアン・スペシャリティ」だね。飲み物は「ハーブ茶」とする。
今日もいつもの「ボスニアミックス」
15分ぐらいで料理がやってくる。いつ見ても旨そうだ。前にも記したとおり、ボスニアの典型的な料理が一皿にまとめてあり、肉や野菜のダシが効いていて、美味しい。また、適度な塩味、ヨーグルトの酸味がからみあい、絶妙なバランスである。あと、言うまでもなく、パンが絶品だ。
腹が減っていたこともあり、さっさと食べてしまう。また、店員が残業になってしまっているので、15マルク(850円)を支払う。「今日もすごくおいしかったよ」と伝えると「そいつは良かった。また来てね」といつものように言葉を交わす。
因みにだが、この国では17%の税金がかかっているのだが、記載は内税なので迷うことはない。また、チップも要求されないので気を遣うをこともない。
腹も満足したので、そのまま雨の街を歩いてホテルに戻る。今日は愛想の良い方の女性がフロントにいるので、モスタルの話をする。また、ついでに「もう一人の、朝にいる女性は無愛想だね」と話を振ると、笑いながら「朝は眠いから、仕方ないのよ」と内情を説明してくれる。それもそうだね、悪気はないんだろうな。
「明後日にチェックアウトするんだけど、早朝にホテルを出るから、明日の夕方に支払いをしても良いか」をたずねてみる。すると「それは問題ないわよ」と回答を得る。疑問は早めに解決しておくと安心だね。
部屋に戻り、シャワーを浴びてさっぱりする。そうか、ゆっくり街を見て回るのは、明日が最後か。寂しいなぁ。一瞬そう思うが、明日があるので、その先の事は後で考えれば良いのだ。今日は疲れたので、メモは明日の朝につけることにして、23時に就寝する。
第6日目 その1へ続く