管理人 海外へ行く
~ボスニア・ヘルツェゴビナ編~
2018年10月23日 ~ 2018年10月31日


バシチャルシア地区の金物屋の様子

10月29日(月)
第6日目 その2

1.ミッション完了

新市街地ではあまり良い土産を見つけることができなかったので、は旧市街地「バシチャルシア」地区で探すしよう。それはそうと、路面電車の回数券があと2回分残っているので、これを使って戻ればちょうどよい。また、ショッピングセンターの前に停留所があるので、ここから路面電車に乗る。

電車は川沿いを走って行くのだが、この光景が見られるのも今日が最後なのか。そう思うと寂しくなるなぁ、と感慨にふけっていたら、なんと席を譲られてしまう。「おいおい、俺はそんなジジイじゃあないぞ」と思うが、せっかくなので座らせてもらうことに。それにしても、俺よりも歳をとったひとはたくさんいるのに、何で俺なんだろうか。

座って景色を見ていると、旧市街地に到着だ。さて、土産を探すために、金物屋が並ぶ路地をめぐってみよう。前述のように、ここには多くの店が軒を連ねており、見ているだけも楽しい。だからというわけではないが、毎晩食事に行くついでに、金物屋を少しずつ物色していたのだよ。そして、同じような商品でも、店によって微妙に値段が違うこと発見しているのだ。


金物屋がずらりと並ぶ路地

あらかじめ決めておいた店へ行き、商品を見て回る。すると、店の主人が奥から出てきたので「土産を探していて、あまり大きくないが、記念に残るようなものはないか?」とたずねてみる。すると「これなんかどうだ」と銅製の皿を選んでくれる。それは、とても精巧で、かつとても細かい模様が描かれた、直径20㎝ぐらいのものだ。そう、いかにも金物の街、サラエボのものだという趣だ。そして「本当は35マルクだけど、30マルク(1,800円)でいいよ」と、最初から値引きのワンプライスを提示してくる。

んー、商売上手いなぁ。「どうするかな」という顔をしていると「プレゼントする人の名前を入れてやるよ」と、紙とボールペンを出してくる。ああ、熱心に頑張っているし、商品も悪くないのでこれで決まりだな。「よし、それを買おう」と答えると、その場の緊張した空気が一気に緩んだ。

これは前述の10歳年上の、子どもの頃からよくしてくれる従兄に買っていくものであるので、彼の名前を紙に書いて、店主に渡す。すると、皿の裏にリューターで器用に名前を書いていく。いつもこうやって売っているんだろうな。

次に違う店に移り、弾丸のキーホルダーも買っておく。これについては、同じものでも店によっては2倍、3倍の値段がついているから驚きだ。


こんなものもたくさん売られています

2.最後の楽しみ

何とか土産物を購入できたので、少し腹が減ったな。そう思って泉のある広場に出てくると、ショーケースに大きな肉の塊がゆっくりと回る店があることに気がつく。いつもは朝早くに市街地を出るいので、この辺りの店は開店前なのだが、ドネルを売っているとは思わなかった。

これに惹かれて店に入り、メニューを見る。ええ、ドネルのサンドイッチとトルコ茶で6マルク(360円)とは、激安ではないか。これに決定だ。店員を呼んで注文をすると「シキンか?」と聞かれる。「シキンってなんだ?」と聞き返すと「シキンかビーフか」と聞かれる。ああ「チキンかビーフ」って、ドネルが2つあって、鶏と牛があるってことね。「ビーフで。あと、トルコスタイルのお茶も」と注文をする。

それを聞いて、店員は長ーいナイフで回る肉の塊を、器用に薄く切り取っている。ああ、ドネルってああやって切り出すのか。へぇ~。関心して見ていると、ドネルサンド・ビーフはすぐに運ばれてくる。因みに豚がないのは、イスラム教の国から来たものだからだろうね。


調理場の様子

ドネルサンドをほおばり、トルコ茶で口を潤す。そんなに贅沢な食べ物/飲み物でもないが、およそ日本で食べることはないだろう。そう思うと、旅の終わりが近くなっていることを実感する。


ドネルサンド(ビーフ)とトルコ茶

広場に目をやると、サラエボは本当に多国籍・多彩な人が行き交っている場所だ。1年半前に行ったセネガルでは、大半はイスラム教徒なのだが、皆黒人である。しかし、ここサラエボでは、スラブ系の顔をした女性もショールを巻いている。つまり、白人のイスラム教徒だ。別に不思議なこともないのだが、日本人の当方としては、何だか不思議だ。


食事をしつつ、泉を眺める

食事を済ませて6マルクを支払い、ホテルに戻る。明日は7時40分の飛行機に乗るのだが、それには2時間前、つまりは5時30分過ぎに空港にいなくてはならないのだ。それ故に、今日の内にホテル代を清算しておく方が、朝にバタバタしないで済む。これは、前述のセネガルでも行った対策であり、今回もそうしておこうというわけだ。

3.仕上げにかかろう

フロントには陽気な男性がおり「チェックアウトの件だが、明日は朝5時にここを出るので、今日済ませておきたい」と申し出る。「それは問題ないが、朝からカードの読み取り機がうまく動かないんだ」と困り顔である。ええ、カードで決済しようと思っていたのに・・・。「じゃあ、現金で良いか」と申し出ると「それは良いよ」と。そして「ちょっとパスポートを見せて」と言われる。何をいまさらと思って「え?」と言う顔をすると「いや、慎重に身元を確かめて起きたんだ」と言う。そりゃそうだ、こんな東洋の端っこからきた中年のオッサンが早々信用できるはずも無かろう。もちろん、喜んでパスポートを提示すると「ああ、どうもありがとう」と笑顔で応えてくれる。

この後、一旦部屋に戻り、ゴソゴソと明日の出発の準備をする。そうか、明日はサラエボを発つのか、この1週間は時間に追われることもなく、まさしく夢のような日々だった。いや、実は夢なのか。いてて、やはり夢ではなく、現実だったのだ。そんな感じでボーっとしていたら、眠くなってくる。しかし、ここで昼寝(夕寝)をしてしまったら、夜に寝られなくなる可能性が大だ。そこで、早速現金を下ろしがてらに、17時ごろに再び街へ出ることにする。

階段ではベビーカートに乗った赤ん坊を見かけたので、ちょっとあやしてみる。もちろん、日本流に「イナイイナイバァ」であるが、これは国籍・人種を問わないで効果があるようだ。詳細は省くが、以前「イナイイナイバア」の心理学という文章を読んだことがあり、その内容が正しければ万国共通のはずなのだ。ここでそれが立証されたのは、ちょっとした収穫だ。

「バシチャルシア」地区に紛れ込み、一番近いATMで280マルクをおろし、その後素知らぬ顔をして喫茶店に入る。海外で高額の現金を持っているのは、非常に危険だからね。ましてや当方は東洋人だから、旅行者とバレバレである。誰に狙われているか、わからない。

ドキドキしつつも、注文はもちろん「ボスニア・コーヒー」である。このコーヒーとも今日でお別れか。気がつけば気軽に飲んでいたのだが、日本ではこんなものを見たことがないので、しばらく飲むことはないだろう。コーヒーを飲んで一息ついていると、徐々に日が暮れて行き、明かりが灯る。昼と夜では、また雰囲気ががらりと変わるのが面白い。


最後のボスニア・コーヒーか

繰り返しになるが、この街は本当に多彩な人々がいる。これこそが多様性という言葉で表される状況だろう。日本でもよく「ダイバーシティ」と言われるが、日本人なんだから「多様性」と言えばよいのだ。また、そういうことを声高に言っておきながら、現状は相変わらず「Uniformity」つまり「画一性」を重視しているわけだから、何ともお粗末である。

2マルクでコーヒーを楽しんだ後、市街地をブラブラと歩く。おや、珍しく、子どもの物乞い?がいる。いや、流しの歌手?かな。おお、なかなか上手に歌うではないか。ひょっとしたら、将来は歌手になるのではないだろうか。

何気なく歩いていたら、時刻は19時だ。そろそろ食事をしようと思うが、適当な店が見当たらない。そうなれば、いつものあの店「イナット・クチャ」へ行くしかなかろう。これこそが最後の晩餐だ。

店に入ると結構混んでいるが、いつものウエイターが「よう、来たな」と言う顔で迎えてくれる。もちろん、注文は「ボスニア・スペシャリティ」だ。飲み物は「カモミール茶」としておこう。この店も今日が最後かと思うと、この数日が本当に早く過ぎたことを感じる。いや、ここサラエボでも1日は24時間なんだけど、それだけ充実していたということなのだろう。

感慨にふけっていると、料理が運ばれてくる。待ってました、いただきます。うーん、この出汁がまた、たまらない。素朴ながら、とても深みがある。おー、肉団子をかじれば、肉汁があふれ出てくるぞ。そしてこのパン、小麦の味が口いっぱいに広がって、適度に歯ごたえがある。日本のそれとは大違いだ。


やっぱりこれだよね

じっくりと料理を味わい、お茶を飲んで落ち着く。ああ、最後の晩餐もあっけなく終了だ。料金の15マルクを払う時に「実は、今日はサラエボでの最後の夜なんだ」と話す。すると、ウエイター氏は「また来ればいいじゃないか」と肩を叩いてくる。そうだよな、またくりゃいいんだよな。ついでに、ガイドブックに載っている、この店の写真を見せて「これはあなたじゃあないの」と、小さく写っている人を見せてみる。すると、彼は何?と言う顔で、しげしげと見ている。「多分そうだろうな」とあやふやな答えだが、彼かどうかが問題ではないことは、双方理解していることだ。

「また来るよ」と言って握手を交わし、店を出る。ああ、結局サラエボ滞在中、6泊のうち4回も来たのか。本当に旨い料理だったので、ついつい足が向いてしまう。にわか常連も今日で終わりである、寂しいね。

大金を持ち歩いての食事はちょっと落ち着かなかった?が、最後の晩餐を楽しんだ後、寄り道をしないでホテルに戻る。

受付には愛想のあまり良くない方の女性がいるが、お金を支払うので強気に行こう。いや、今日はにこやかに迎えてくれるので、そんなことを考える必要もないようだ。

当方:明日は朝7時40分の飛行機乗るので、今日のうちに代金を清算しておきたいんだけど。
受付:あら、いいわよ(宿泊者の帳簿を見ながら、端末を操作)。130ユーロよ。マルクだと・・・
当方:260マルクでしょ?
受付:そうよw。
当方:260マルクね。
受付:ありがとう。
当方:あとさあ、さっきも言ったように、飛行機が7時40分発だから、2時間前の5時過ぎには空港に行きたいんだ。タクシーで行けばいいのかな?
受付:そうね。タクシーを手配しておきましょうか?
当方:え、いいの?
受付:いいわよ。5時に来るようにすればよいかしら。
当方:そうですね。値段はいくらぐらいかな。
受付:そうねぇ、25か30マルクぐらいじゃあないかしら。
当方:わかりました。じゃあお願いします。

なあーんだ、とっても笑顔の素敵なおねえさんじゃあないですか。もう一人の女性が言っていたように「朝は眠い」から、機嫌が悪かっただけか。

そう思いながら部屋に引き上げて、メモをつけたり、テレビを観たり、荷物をまとめたりしてサラエボ最後の夜を過ごす。あ、しまった。レシートをもらい忘れた。そう思って、すぐにフロントに下りていく。
当方:ごめん、レシートをもらっていなかった。
受付:ああ、わかりました(端末を操作)。はいどうぞ。
当方:煩わせてごめんね。
受付:いえ、仕事ですから。

この女性は至極真面目な人なんだろうね。それにしても、夜と朝ではこんなに機嫌が違うとは、まったく驚いた。女には気をつけろ・・・だ。

さて、これで出発の準備は整った。今日はもう寝るかな。

第7日目 その1へ続く

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