空から見たサラエボ
朝の2時30分頃に目が覚める。おいおい、外は土砂降りじゃあないか。飛行機は飛べるんだろうな?ちょっと心配になるも、そんなことを気にしても仕方ない。もう一度寝る。4時30分頃に再び起きて、携帯電話のアラーム音を止めて活動開始だ。顔を洗って歯を磨いて、荷物をチェックして、決められた手順通りに行動していき、5時過ぎには部屋を出る。
ありがとう、207号室。いつものように、部屋にお別れを言ってからフロントに下りていく。すると、フロントから話し声が聞こえてくる。もうタクシーが来ているようだ。なかなか時間に正確で、嬉しいじゃあないか。フロントの男性に挨拶をして、既に料金は支払っている旨を伝える。「ああ、知っているよ。空港に行くんだろ?タクシーが来ているよ」と、運転手の方を見る。
「世話になったね、ありがとう」と言い、がっちりと握手を交わす。因みに、こちらの握手は手のひらを上か下に向けるようだ。昨日のレストランでもそうだったな。あと、料金についてたずねてみると、男性は運転手と現地語で会話して、30マルクであることを確認してくれる。ありがとう。
外へ出ると雨は幾分小降りになっており、飛行機の運航には問題なさそうなレベルだ。スーツケースをトランクに入れて、さっさと助手席に座る。こっちのタクシーはメーターがあるということだったのだが、このタクシーもそんなものはない。まあ、値段は30マルク(1,800円)とわかっているので気が楽だ。
旧市街地の泉から大聖堂、市場のある一方通行の道を通り、バシチャルシア地区を離れる。平和の炎を過ぎるとスナイパー通りだ。おや、ガイドブックでよく見る、チトー通りのカフェ「IMPORTANCE」はここにあったのか・・・って、まさに帰るこの時にわかっても仕方ない。
何回か内戦時のスナイパー通りの写真や映像を観たが、今はこんなに平和である。この時がずーっと続いて、また来られると良いな。そんなことを考えていると、車は広い通りから高架橋で針路を変える。因みに、運転手は英語がわからないようなので、黙ったままである。往路とは大違いだね。
20分程で空港に到着だ。運転手に「30マルクだよな」と確認すると、そうだという雰囲気で頷いている。我ながらくどいなと思うのだが、どうもダカールの時に身につけた「癖」が自然と出てくるのだ。また運転手が「May I・・・?」と言うのだが、つまり「May I ask you to bring out your suitcase for yourself?」ってことだと思ったので「Yes, sure」と答えておく。
決められた30マルクとチップの小銭を払って、荷物をおろす。ひゃー、雨が冷たいよと余韻に浸る余裕も無く、さっさと空港の建物に滑り込んだ。時刻は5時20分前なので、時間は十分にある。中に入ってしまえば余裕である。
早朝の雨のサラエボ国際空港
東ヨーロッパにある田舎の国際空港だが、早朝にもかかわらず意外と人がいる。それもそのはずで、6時30分には「ザグレブ 」行きのクロアチア航空341便が出るようだ。同便は既に搭乗手続きが始まっている。
さて、当方が乗るオーストリア航空760便、またはルフトハンザドイツ航空6455便はどうかな。電光掲示板には「CHECK-IN」の表示が出ていないが、カウンターを覗きに行く。すると、既に職員がスタンバッているので、そのままE-TICKETとパスポートをを提示して手続き開始だ。
意外と人がいる早朝のチェックインカウンター
また預入荷物を「Luggage for check-in」として預けて、搭乗券とパスポートを受け取る。因みに、この職員もあまり愛想がないが、きっと早朝で眠いんだろう。昼になれば笑顔の素敵な人に違いないw。それはそうと、荷物の受け取りについて何も言われなかったが、NGO(中部国際空港を表すコード)まで拾う必要はないよな?ちょっと心配になるが、搭乗券はNGOまでの3レグ分を受け取っているので、再チェックインする必要は無い=預けたスーツケースは途中で拾う必要は無い・・・よね?
次に保安検査を通らねばならない。ここで「Do you have a bag-in?」と、つまり機内持ち込みの荷物の有無をたずねられる。ああ、そういう言い方をするのかって、あんた何回海外に行っているんだ?そんな程度のことで関心しているようじゃあ、まだまだだね。まあ、このちいさいバックパックだと示しておけば大丈夫だ。
検査の後はパスポートコントロールで、出国手続きの仕上げにかかる。もっとも、ここでは顔写真と実物の顔を見られるのみで、特に問題はなかったよ。やはり、日本のパスポートは信頼性が高いのだろう。
無事にパスポートコントロールのブースを通過し、出国手続きは完了だ。やれやれと先へ進むと、やや広い待合室、カフェがある。そういえば、起きてから飲まず食わずだ。何があるかな、席に着いてメニューをみると「DECOFFEINATED COFFEE」がある。これはポルトガルに行った時にも見かけたので、どんな味か試してみたい。ポルトガルの時もあったのだが、この際は店員から販売を拒否されてしまったことがある。因みに、これはカフェインを含まないコーヒーのことで、某社のインスタントコーヒー「ゴールドブレンド・赤ラベル」に相当するのではないだろうか。
待合室の様子
(左端がカフェ)
早速注文カウンターへ出向いて、これを注文する。しかし「No, we don't have.」と言われて、やはり販売を拒否されてしまう。さらに店員は「Maybe, instant」と続けて、これが相当品だと。まあ、そういうことにして、その「Instant」と、「Ham Sandwich」を注文する。値段はそれぞれ5ユーロで、合計10ユーロ、現地通貨だと20マルクである。市内ならコーヒー2マルク、サンドイッチ3マルクというところだろうから、約4倍の値段だ。驚いたなぁ。
随分と高くついた朝食
随分と高い朝食を食べた後、出発のゲートを確認する。と言っても、ゲートは4つしかないんだけどね。さて、時刻を確認しようと壁にある時計を見る。おいおい、サマータイムはとっくに終わっているんだから、時計をなおしておけよ。これも驚いたなぁ。
さて、少し落ち着いたので、免税店へ行こう。ここでも例外なく、きらびやかな店が並ぶが、メルボルンや香港のそれらに比べたらかなり小規模なものだ。しかし、免税店にはなぜか、独特の雰囲気がある。また、「免税」という言葉のせいだろうか、何だか買い物をしないと損をするような気持ちになる。ただ、当方が欲しいものはあまりない。酒は飲まないし、タバコも吸わない。装飾品なんて失いそうだし、時計なんかも安物で十分だ。というわけで、店員から声がかかっても「Just looking」と言う以外に返答のしようがない。
免税店の様子
友人や仕事場への土産を購入するが、マルクがまだ余っている。何かないかな、と店内をウロウロしていると、ちょっとおいしそうな焼き菓子を発見する。これは日本で言えば「チンスコウ」のような形をしていて、大きさ的には2倍ぐらいになろうか。これにしよう。値段は1つ3マルクであった。レジで支払をするのだが、この時には航空券を提示しなければならない。そりゃそうだ「免税」の特典を得られる人は、これから飛行機に乗る人のみだからね。え、おつりはユーロでくれるの??それは助かるね。
因みにこのLOKUMであるが、実はトルコのお菓子だそうだ。ボスニア周辺をオスマントルコが支配した時に入ってきたようで、よく食べられるようだ。まあ、ビスケットを少ししっとりさせたようなものだ。
LOKUMというお菓子
これで帰りの飛行機に乗る準備は完了し、外も明るくなってきた。今から乗る機体はどんなのかな、事前調査によれば、サラエボーウィーン間はブラジル製のERJ175ということなので、とても楽しみだ。尚、この機体は地元の名古屋飛行場(中部国際ではない)でFDA社が国内線に使っているものだ。もちろん、今まで乗ったことはないので大いに楽しみである。
ウキウキして窓から外を見ると、あれ~ぇ?エアバスA320CEO(NEOに対して、従来型はこう呼ばれる)じゃあないですか。しかし、よく見るとクラシックタイプの特別塗装機だ。また、登録記号はOE-LBPであり、1998年3月にオーストリア航空に納入されて、A320CEOとしては797番目に製造されたものだ。ちょっと古いので特別塗装を施して、残り少ない退役までの期間に花を持たせてもらったのだろう。
これから搭乗するA320の特別塗装機
時刻は7時前なので、搭乗開始に備えてゲート付近の椅子に座って待つことにする。サラエボには6泊したわけだが、本当にあっという間だった。寒い雨の夜に到着して、ちょっと多めにタクシー料金を支払った以外は、お金に関する問題はなかったし、物価も安くて楽しく過ごした。ホテルの人も親切だったし、食事も旨かったなぁ。
夢のような日々を思い返していたら、7時20分頃から搭乗開始となる。これでサラエボともお別れだ、また逢う日まで。搭乗橋を歩きつつ、外の景色をもう一度見ておく。おや、駐機場にはなぜか軍用輸送機のC-130が見える。これも地元の名古屋飛行場に配備されていて、当方自宅アパート上空を毎日通過する、見慣れた機種だ。マリのバマコにもいたし、ロッキード社はかなり儲けているな。
ここでもハーキュリーズ
機内に入り、指定した24Fの席に着く。これも事前に有料で指定した席である。今日の搭乗率は80%近いと思われるので、金を払ってでも指定した価値があったね。おっと、出発前の安全に関するデモの時間だ。この機体にも個別モニターがないので、録音された音声にあわせて、CAさんが実際に行動する。地方路線ならではの光景なので、何だか面白い。
機内の様子
座席配列は3-3の横6席
こうして、無事にほぼ定刻の7時40分頃にはプッシュバックが始まる。未明の大雨で遅れ等を心配したが、雨は上がって無事に出発となる。嬉しいが、サラエボを発つのは残念だ。
誘導路を移動している間、数日前に訪れた「トンネル」が見えないかを確認する。多分あの辺りだろうなぁ。そう思っていると、機はR/W30の端で向きを変えて、R/W12での離陸体制に入る。いつものように強烈な加速と共に、旅客ターミナルが流れていき、水煙の中を軽々と宙に浮かぶ。眼下には素朴な、茶色い屋根の家々が見えてる。サラエボよ、また逢う日まで。
離陸滑走中の機窓から
(吹き流しの状態から見ると、北の風6ノット(3m)というところか
「ガク~ン」うぉー、なんだなんだ???いきなり高度が落ちたよ。ああ、まただよ。どうやら気流が悪いらしく、空気の密度が低いスポットに捕まったようだ。その後はガタガタ揺れつつも、高度を上げていくので墜落の危険はないようだ。しかし、心臓がバクバク言っているし、冷や汗が出た。
常々、バードストライクなどのエンジン故障で、片発のまま緊急着陸なんていうのも経験してみたいなと思っているが、実際にそうなったら混乱してしまうだろうね。関係ないが、日本航空123便の事故では、30分程迷走(迷飛行)したのだが、その間CAに「大丈夫なのか」と詰め寄っていたのはほとんどが男だったということだ。もし、当方がその場にいたら、間違いなくそのうちの一人になっていることだろう。
高度を上げていくにつれて揺れも収まり、雲の上に出れば青い空が広がる。ここから最初の経由地「ウィーン」までは、時刻表では、所要時間は1時間20分である。また、30分程で巡航高度に達したようで、機内食の配布が始まる。今回は飲み物だけが選択できるので、コーヒーを注文する。因みに、食べ物はカステラである。因みに、カステラはスペインの北中部に興きた王国の名前に端を発していると言われており、英語の「Castle」の語源という説がある。
簡素ながら、機内食が出るのは嬉しいものだ
さっきまでの雲天がウソような晴天になり、冬枯れが始まっている山々がよく見える。クロアチアの上空だろうかな?
今日はこの先、前述の「ウィーン」を経由して「フランクフルト」まで飛び、そこから中部国際空港へ向かう、30時間以上の長旅である。もっとも、当方にとってはこれも旅の醍醐味であり、楽しみでもあるのだ。音速手前の速度で、1万㎞以上の距離を、1万m以上の高度を飛んでいく、そう考えただけでも心が躍るというものだ。
食べた後は少し眠くなってくるが、機はオーストリア上空にさしかかったようで、窓からは綺麗な街並みが見えてくる。それはまさしく、多くの人々が想像する「ヨーロッパ」という趣であり、途中降機していきたくなる程だ。
ウィーンの上空
公園だろうか?いかにもヨーロッパという趣
そう思っているとぐんぐん高度を下げて、晴れたウイーン国際空港のR/W34に着陸して、9時前にはスポットに入る。さて、次の「フランクフルト」行きは10時10分出発なので、乗り継ぎは1時間ちょっとである。焦ることもないが、ゆっくりもできないだろう。ひとまず他の人々が降機して空いてきた後、席を立つ。鮮やかな赤の制服を着たCAさんにお礼を述べて、速足で歩いていく。
ええと、乗り継ぎはどうするのか?看板を見ながら、指示通りに歩いていく。途中、電光掲示板を見ると、搭乗予定の9時10分のフランクフルト行きには、CX6672便の表示が出ており、ゲートについては「F」とだけ示されている。ええ、オーストリア航空は「スター・アライアンス」なのに「ワン・ワールド」所属のキャセイ・パシフィックの便名なの?コードシェアしていることに驚きだ。。
そんなことを考えていたせいだろうか、間違って往路と同じ「G」ゲートの入り口へ入ってしまったようだ。「ようだ」とは他人事であるが、この段階ではまだ間違いに気がついていなかったのだよ、ヤマトの諸君。
他の乗客と一緒に歩いていき、保安検査場にやってくる。ここも往路に通った場所なので、まだ間違いに気がついていない。相変わらずマイペースに仕事をする職員を見ながら待っていると、数人先にいるオバサンが「あなた、昨夜、サラエボのレストランで見たわよ」と声をかけてくる。「ああ、イナット・クチャ、川の横ですかね?」と言うと「そうね」と。オバサンはカナダに帰る途中ということだったので、同じ長旅である。「気をつけて」ね。
保安検査場では、ちょっとした問題が発生する。機内持ち込みの液体の量が多いということだ。いやいや、これはサラエボの免税店で買ったし、ちゃと袋が密閉されている。サラエボでは「この袋は最終目的地まで開いたらダメよ」と免税店の店員から念を押されているので、もちろん開いていない。それでもケチがついたのだ。「検査するから、ちょっと待っていてくれ」と言われて、自分が金属探知機のゲートを過ぎた所で待つ。すると、5分程で酒の袋が戻ってくる。そうだろう、俺は何もしていないよ。
保安検査が終了したので、後はフランクフルト行きのOS129便が出るゲートに行くだけだ。あ、遠くにエチオピア航空の787が見える。機体番号が確認できれば、ダカールの時に乗ったものかどうか調べられるのだが、距離があるのでそれは難しい。
電光掲示板を確認すると該当する便のゲートは「F10」と表示されている。ええと、Fはどこだ??あれ、ないじゃん。おっかしいなぁ。隅から隅まで探すが、見つからない。おおそうだ、オーストリア航空のカウンターで聞いてみよう。
管理人:「すいません、OS129便が出るF10のゲートはどこですか?」
係:「え?Fだって?搭乗券を見せて。ああ、下の階だよ。あの看板に従って、パスポートコントロールを通って、保安検査を受けてね」
管理人:「(そうだったのか)ありがとうございます」
おいおい、階を間違えているぞ。そうだよ。ドイツに行くんだから、一旦オーストリアに入国扱いになって、EU圏に入らなくちゃ。何かおかしいと思っていたんだよな。そうさ、カナダに帰る人と一緒に保安検査を受けている時点で「おかしい」と気がつかなくちゃ。カナダの人はEU圏に入らないで飛行機に乗り継ぎをするんだから。何てこった。
Fのゲートを目指して、パスポートコントロールからやり直し
時刻は9時を回っており、一方、搭乗開始時刻は9時40分だから結構ヤバいよ。さっきの掲示板には「20から30分かかる」と但し書きがあったな。冷や汗なのか、暑いからなのか、汗をかいて看板の「F」の文字に従って走って行く。
パスポートコントロールでパスポートを見せて、スタンプを押してもらう。そして、そのまま走って下の階へ行くと、多くの人が列をなしている保安検査場へ出てくる。あー、間に合わなかったらどうしよう??そう思いつつ、列に並んでトレーにベルトや上着を入れていく。もちろん、さっき問題になったお酒もだ。
「こいつは液体の量が規定より多いので、もう一回検査するよ」と同じことを言われるので、検査ラインの最後で待つ。時間がないんだから、早くしてくれぇ~。と焦っていると、お酒の袋を返してくれる。そして、そいつをひったくるように取ったら、ダッシュでゲートへ向かう。何せ空港は広いので、ゲートは近いようで遠い。
免税店や喫茶店を横目に走る、走る、走る。ザッハトルテを食べつつ、コーヒーを飲んでゆっくりする予定は「パア」になってしまった。残念だけど、乗り遅れたらシャレにならないので、とにかく走る、走る。
とにかく走ると、やっとゲートが並ぶエリアにやってきて、お目当ての「F10」を発見した。時刻は9時30分頃なので、これで乗り遅れることはなかろう。焦ったなぁ。
かばん屋の所にF10のゲートを発見
第7日目 その2へ続く